まず目を奪われるのは、当時の三針腕時計としては異様なほどの巨大さを誇るラウンドケース。シリンダーケースとも呼ばれる、薄いベゼルが垂直に立ち上がった円筒状のフォルム。ビッグサイズのケースでありながら、ごく控えめなインデックスや針。一見アンバランスなように見えて、文字盤側から見るとベゼルやラグの薄いシリンダーケースだからこそ可能となる、攻めたデザインです。ショートスタイルのラグによるラウンドフォルムの強調という点も見逃せません。 ひとつひとつのディテールは古典的な腕時計を踏襲していながら、まるで最近リリースされた新作腕時計のようなコンテンポラリーな息吹さえ感じます。細部に渡って計算し尽くされた膨大な幾何学性を、シンプルな全体像にまとめあげるロンジンの時計デザインには脱帽せざるを得ない。そんな一本。 ムーブメントにはCAL.12.68Zを搭載。1929年から製造開始されたモデルで、厚みのある耐久性の高いパーツが用いられたロンジンを代表する傑作機のひとつです。粒金仕上げとなるパーツの各エッジ部分には丁寧な面取りが見られるほか、心臓部のテンプ部分にはブレゲヒゲゼンマイ、バイメタル切りテンプが使用されています。古典的な超高級技術と高いクラフツマンシップが融合した美麗なムーブメント。 ケースは部分的に小キズが見られるものの、エッジの切り立った良いコンディションを維持。文字盤は若干ダメージが見られますが、年代や希少性を鑑みると許容範囲と言えます。ベルトにはバンブーブレスの傑作《ボンクリップ》を着用。独特のデザイン性はこの腕時計が持つ幾何学性を増幅するとともに、上品なルックスを一際輝かせるベストマッチの逸品です。