社員の永年勤続を祝い、スミスの腕時計を記念に贈る。そんな慣例が昔からイギリスの有名企業の多くで行われていました。戦後特に人気だったのは、やはり英国製にこだわった国産時計メーカーである、〈スミス〉でした。 ブリティッシュ・レイルウェイズ、ローバーといった有名企業の多くは、特に金無垢ケースのモデルを社員に贈っていましたが、唯一インペリアル・ケミカル・インダストリーズ(ICI)社のみ、戦後一貫して銀無垢のクッションケースのスミスを永年勤続の社員に贈り続けました。いわばこのモデルはICI社のスペシャルオーダーというべき存在で、当時一般市場向けには販売されていないようです。 こちらはその中でも特に希少な、ドーフィヌ針を採用したモデルで、ICI社の関連会社であるインペリアル・メタル・インダストリーズ社によって贈られたもの。ペンシル針を採用するICI社に対して、IMI社は一貫してこのスタイルをとっていました。それ以外のデザインはすべて同じ。製造された時代には珍しかったであろう、アラビア全数字インデックスやツートーンの文字盤、スモールセコンドといった極めて古典的な文字盤デザインは、何か特別な思いを感じます。 やや丸みの強いクッションケースに、夜光を伴ったミリタリーテイストの文字盤デザイン。銀無垢ならではの無骨な輝きとともに、クラシカル、ハンサム、ラギッドといった三様の異なる美意識を兼ね備えているようにも見える、魅力的な仕上がりです。手掛けたのはやはりデニソン社です。 搭載するムーブメントは、スミスの代名詞とも言える英国製の自社ムーブメント”1215”をベースに、二番車に大きな受け石を追加し16石仕様とした特別機。美しい粒金仕上げに加え、耐震装置をテンプに装備しているのがポイント。