フランスの屈指の名門時計メーカー〈リップ〉。その初期に製造された味わい深い製品群は、現行品とは全く異なる魅力に溢れています。特にこちらはリップ初期を代表する名作で、当時の英国首相チャーチルに贈られたことでも知られる由緒あるモデル。アラビア全数字インデックスやレイルウェイ・インデックスなど、幾何学的な文字盤デザインにアールデコ爛熟期の流行を伺えます。 また当時の角形時計としてはかなり大振りな部類に入るボリューミーなサイズ感も魅力的。直線が強調されエッジの切り立った力強いレクタングルシェイプはインパクト十分で、多くの角形時計が持つ女性的なイメージとは大きく異なる仕上がりです。またこのモデルの多くは固定式のラグ仕様ですが、こちらは数少ないバネ棒仕様というのも嬉しいところ。角形時計は比較的ベルトの種類を選ばないので、スタイリングに合わせて着け替えを楽しめます。 ケース内部は内蓋を採用した2重構造になっており、自社製キャリバーT18が搭載されています。このムーブメントの特徴は、動作を安定させるためにテンプのサイズが大きく設計されている点で、その結果四番車の軸が二番車に非常に接近しています。ちなみに、Tは"TONNEAU(トノー、樽型)"の頭文字。そのため秒針の取付位置が時計の中心に近くなり、秒針は通常のスモールセコンドのような6時の位置ではなく、時計の中心に近いところにあって、秒針の長さもわずか1mmほどという独特のデザインになっています。