〈J.W.ベンソン〉自体は元々懐中時計を製造していた時計メーカーでしたが、戦後開始した腕時計の製造は、スイスを中心とする時計メーカーに製作を依頼していました。中でも英国の時計メーカー〈スミス〉が製造を手掛けたモデルはデザイン、クオリティともに極めて高いことで知られています。 1940年代末に始まるスミス製のJ.W.ベンソンは、その多くが伝統的にローマ数字をアワーマーカーに採用しています。これはスミスがその初期モデルに採用していた同様のデザインを流用したもので、こちらはそれと同年代にあたる1949年に製造された大変貴重なモデル。 ローマ数字と菱形のクサビが、二重の円の間で一体化して配されるデザインは、明らかにアール・デコの様式美を踏襲した気品溢れる仕上がりです。英国時計、とりわけスミスの初期モデルを特徴付ける細身のブルースチール針は幾何学的な線の配置と一致し、文字盤に一層の調和を生んでいます。 また初期モデルに共通するポイントとして、英国〈デニソン〉社製の金無垢ケースに、シリンダースタイルを採用していると言う点も挙げられます。薄く直線的なラグデザイン、円筒形のフォルムを特徴とするユニークなケースデザインは、アール・デコの文字盤と絶妙にマッチしています。 スミス製のベンソンの腕時計には、多くの場合16石の受け石を装備したムーブメントが搭載されますが、こちらは1940年代製のため15石の通常モデルを搭載するという極めて珍しい個体。美しい琉金仕上げや独特のブリッジデザインも、スミスの名機”1215”と全く同じ仕様となっています。 着用するベルトは、自然な細かいシボが印象的なイタリアンシュリンクレザーを採用したadvintageオリジナル。オイルをたっぷりと含んでおり、しなやかでしっとりとした質感があります。使い込むうちに光沢が増し、味わいのある風合いとなります。