スナップバック式にパッキンを用いて防水性を確保した、初期のウォータープルーフケースを使った1930年代の古いオメガ。パッキンが入るスペースを持つため全体的に肉厚で、ステップドベゼルを持っているのが特徴的です。

個人的に最も気に入っているのが、左から右へ、グラデーションのように日焼けが濃くなっていくトロピカルダイヤル。おそらく右側からだけ直射日光を浴び続けて長い年月を経た個体。そのエイジングの具合も極めて美しく、濃淡が徐々に移り変わっていく様はずっと見ていられるほど魅惑的。近年、文字盤をキャンバスとして用いたアートピースのような腕時計が現行でリリースされていますが、このオメガは人為的なものではなく、自然と偶然がアーティストとなった芸術作品と言えます。

また日焼けの美しさばかりに目が行きがちですが、文字盤の普遍的なミリタリーデザインの精緻さも魅力的です。特に文字盤外周に配されているレイルウェイ・ミニッツトラックは、その部分のみ他と表面の仕上げを変えていて、光の差し込み加減で刻々と濃淡が変わるツートーンダイヤルとなっています。おそらくこれがデッドストックであれば、普遍的で高い水準のデザイン性を持ったオメガですが、普遍的であるがゆえにそれ以上のコメントはできない、大量生産品のひとつだったかもしれません。

搭載されるCAL.23.4というムーブメントは、30mmキャリバー以前にオメガが開発したもの。こちらはその中でも最も初期に製造された個体で、テンプには古い年代の高級機のみに採用された温度補正機構であるバイメタル切りテンプも採用されています。テンプをよく見ると材質の違う2つの金属の二重構造（バイメタル構造）になっており、さらに切り込みが入っているのが分かります。

着用するベルトは、当店オリジナルの〈アノニム〉。手揉み加工を施したイタリアンシュリンクレザーを素材に使用しています。オイルをたっぷりと含んでいるためしなやかでしっとりとした質感があり、使い込むうちに味わいのある風合いとなります。
» "anonym" LEATHER BELT (ITALIAN SHRINK / GRAY)