知る人ぞ知るスイスの時計メーカー〈ウエスト・エンド・ウォッチカンパニー〉。同社の腕時計は主に英国領インド政府におけるシヴィルサーヴァント、つまり公務員向けに支給されていた腕時計ですが、ミリタリーユースも考慮され、防水性・防塵性の高いツーピースケースは堅牢そのもの。現地の高温多湿・塵埃の多いタフな環境が考慮されています。 ウエストエンドの腕時計で特に面白いのは、本家作だけでなく他社製の個体も存在している点。こちらは「マルチフォート」のネームが入り、バンパー式の自動巻きムーブメントを搭載した、言わずもがな〈ミドー〉が手掛けたモデルです。 光沢のある漆黒のブラックダイヤルに夜光塗料で描かれた大振りなアラビア数字とバーインデックスは、まるで夜の湖面に浮かび上がる月のような、厳かな美しさをたたえています。そのスタイルはセクターダイヤルと呼ばれる、腕時計のアール・デコデザインで最も高い人気を誇る当時の傑作デザイン。 ケースを手掛けるのは、ウエスト・エンド社が常に採用していた高品質ケースメーカー〈フランソワ・ボーゲル(François Borgel)〉。特徴的な多角形デザインと高い堅牢性で、ドレス・カジュアル問わず使い勝手の良さがポイントです。裏蓋の縁に、小さくブロードアローの刻印も。 搭載するムーブメントは、ミドー社が当時先駆的に開発したバンパー式自動巻きモデル。全回転式以前のクラシックな自動巻き機構として知らるバンパー式は、ローターが前後に反発して回転効率を上げるためのスプリングが備えられており、バンパーが弾む独特の音や感触が楽しめる味わい深さが魅力。テンプにインカブロックを装備するほか、大振りなバネによる機止めで耐震性に優れた堅牢設計です。
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