英国で初めて純国産の腕時計ムーブメントを開発・量産に成功した〈スミス〉。1947年に腕時計の販売を開始し、1952年にベストセラーモデルとなる「デラックス」を発表。エドモンド・ヒラリー卿のエベレスト登頂の際にも同社の腕時計が採用されたことも拍車をかけ、スミス・ブランドは確固たる地位を得ることになります。 この個体は、一見するとデラックス以前に存在していた初期モデルのデザインを踏襲していますが、そのスミスのロゴには"DE LUXE"の文字と象徴的な王冠マークが添えられています。1953年以降はこの初期のデザインが一新され、その後展開されるスミスの腕時計の新しいデザインが出来上がるので、結果的にデラックス・シリーズが初登場した1952年は初期のデザインにデラックスのロゴが載るという特殊なラインナップになりました。こちらは、その幻の1952年モデルの一本ということ。 アール・デコを体現する文字盤デザイン。ローマ数字と菱形インデックスのコンビネーションは、二つの同心円の間でそれらが一体化する幾何学的な文字盤デザインは、この後ほぼ独占的にJ.W.ベンソン用に使われることになるため、意外にもこうしたローマ数字のインデックスを持つスミスは数少ないバリエーションです。ただ、独特の王冠マークを伴ったデラックス・ロゴは威厳を放ち、通常の初期モデルとは明らかに異なる雰囲気を纏っています。夜光塗料のユニークな鶯色も味わい深いポイント。 力強さとエレガンスを併せ持つ、ホーンラグが印象的な9金無垢ケースは英国のウォッチケース製造の名門〈デニソン〉社製。このデザインを持つケースも、スミスの初期モデルでしか見ることのできません。 ムーブメントはスミスが誇る名機、CAL.1215を搭載。優美な流線形のレイアウトや独特の粒金仕上げが美しいムーブメント。厚みがあり頑丈なパーツで構成される質実剛健な作りも見逃せません。