フランスの屈指の名門時計メーカー〈リップ〉。その初期に製造された味わい深い製品群は、現行品とは全く異なる魅力に溢れています。 特にこちらはリップ初期を代表する名作で、当時の英国首相チャーチルに贈られたことでも知られる由緒あるモデル。しかしながらこの個体はゴールドレターの下地出しによるブラックミラーダイヤルの文字盤を持つレアモデル。特にユニークなのが文字盤に"LIP"のロゴのみが入り、その他のスペックや機能などの記載が一切ないというシンプリシティで、1940年代までにしか見られないリップの腕時計のディテールです。わずかに大振りなアラビア数字を強調し、あえてハーフレイルウェイのミニッツトラックを採用している点も計算高いレイアウトと言えます。 また当時の角形時計としてはかなり大振りな部類に入るボリューミーなサイズ感も魅力的。直線が強調されエッジの切り立った力強いレクタングルシェイプは存在感に溢れ、多くの角形時計が持つ華奢なイメージとは大きく異なる仕上がりです。また同じT18の中でもこの個体はラグがやや大きく、かなり縦に長いシルエットが特徴。 ケース内部は内蓋を採用した2重構造になっており、自社製キャリバーT18が搭載されています。このムーブメントの特徴は、動作を安定させるためにテンプのサイズが大きく設計されている点で、その結果四番車の軸が二番車に非常に接近しています。ちなみに、Tは"TONNEAU(トノー、樽型)"の頭文字。そのため秒針の取付位置が時計の中心に近くなり、秒針は通常のスモールセコンドのような6時の位置ではなく、時計の中心に近いところにあって、秒針の長さもわずか1mmほどという独特のデザインになっています。 着用するベルトはヴィンテージのデッドストック・クロコダイルレザーベルト。肉厚でボリューミーな現行品とは異なる、ヴィンテージならではの薄型で上品なシルエットは古き良き時代のクラシカルなデザイン性と見事にマッチしています。