〈リーマ〉という時計メーカーが手がけた、1940年代の角形時計。ほとんど使用感の見られない、デッドストックに近いミントコンディションをキープしたこの腕時計は、ドレッシーな角形時計にしては肉厚でゴツいケースのユニークなルックス。しかしながらユニークなのは見た目だけでなく、その構造も非常に斬新なものでした。 なんとこの腕時計は、文字盤の「ETANCHE(仏:防水)」の文字が示す通り防水構造を持っています。基本的にレクタンギュラーの長方形のシルエットは、その構造上スクリューバックケースが不可能ですが、こちらは長方形の枠の中にムーブメントと文字盤を収納し、上からゴムパッキンを噛ませた上に鍔付きの風防を乗せ、さらに上からステンレスのベゼルを取り外し式のラグパーツによって上下から押さえ込むことで機密性を確保しています。ラグパーツを固定するのは、なんと12時位置と6時位置に差し込まれた杭(くい)。 似たような構造でクラムシェルケースというものがありますが、そちらはビスで裏から固定する一方、こちらはそれよりもさらに原始的で、なかば無理矢理感すらあります。当然ながら多くのパーツを要する上に組み立ても大変なため普及しませんでしたが、その無理矢理な構造によってもたらされた極めて個性的で存在感あふれるケースデザインのカッコ良さはいうまでもありません。 リューズもクラムシェルと同様にジョイント式の巻真となっていますが、ジョイント部分も通常の雄雌式ではなく、一方がなにやらフックのような形をしていて、もう片方のリューズ側のチューブサイドに設けられた穴に内側から差し込んでジョイントするという仕組み。リューズトップに見られる小さな点の窪みは、組み上げる際にこの穴の位置を教えてくれるマークです。 これほどまでに独創的で奇想天外なレクタンギュラーケースを採用しておきながら、その文字盤デザインはあくまでクールでハンサム。ブルースチールの美しい時分針に、オールアラビア数字はエンボス成形でトップにギルト仕上げを施す、ドレスウォッチさながらのルックスです。 水面を泳ぐ白鳥の優雅な見た目とは裏腹に水面下で水を掻く激しい足の動きの対照性のような、端正なルックスと堅牢なケース構造という強いコントラストこそ、この腕時計の魅力の源泉と言えます。 ムーブメントはフォンテンメロンのCAL.29のエボーシュをベースとした角形モデルを搭載。注目すべきはブリッジのエッジの美しく丁寧な面取り。汎用ムーブメントをそのまま使うのではなく、自社でしっかりと手の込んだ仕上げとチューニングを行なっている点で作り込みの良さが反映された一機です。 着用するベルトは、当店オリジナルの〈アノニム〉。しなやかでナチュラルな天然ヌメ革の魅力を生かし、使い込むことで深まるエイジングが楽しめます。
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