銀無垢のクッションケースを採用した、〈スミス〉の腕時計。スミスは懐中時計工房として1851年に創業し、はじめて純英国製のムーブメントを搭載した腕時計を発表したのが実は戦後、1948年のこと。こちらはその発表の前年に製造された、スミスの腕時計の黎明期の非常に貴重な一本と言えます。 裏蓋の刻印に見られるイギリスの化学製品メーカー〈インペリアル・ケミカル・インダストリーズ(ICI)〉社は、長年に渡り社員への記念品としてスミスをはじめとした英国ブランドの腕時計をオーダーしていました。スミスはその代表的なブランドで、とりわけ銀無垢のクッションケースは1940年代から一貫してオーダーされています。ちなみに1940年という裏蓋の刻印は製造年ではなく、この腕時計が贈られる本人が定年退職をし受け取る予定だった年。おそらく第二次世界大戦の動乱で、同社がこの贈呈を行うことができなかったのを戦後後追いで行ったものと思われます。 ケースを手がけたのは、やはり英国のウォッチケースメーカー「デニソン」社。銀無垢製のデニソンケースは極めて希少で、上記〈ICI〉社がスミスにオーダーしたモデル以外にその姿を見ることはありません。 文字盤は”SMITHS”のブランド名のみが入る初期形のタイプ。古いモータースポーツの計器を思わせる特徴的なデザインです。控えめなアラビア全数字インデックスに、ブルースチールの青が煌く細身のバトン針というクラシカルなルックス、そしてミリタリーウォッチにも通じるクッションケースの存在感は、このモデルでしか味わえないプリミティブでピュアな魅力。 搭載するムーブメントは、戦後のスミスの腕時計の中でも最初期に作られたと思われる個体。シルバープレートにストライプフィニッシュが施された大変美しい仕上がりの、スミスの代名詞とも言えるキャリバー”1215”。全てが粒金仕上げとなる1950年以前、シリアルナンバーから見てもごく最初期に製造された貴重なムーブメントです。