〈J.W.ベンソン〉自体は元々懐中時計を製造していた時計メーカーでしたが、戦後開始した腕時計の製造は、スイスを中心とする時計メーカーに製作を依頼していました。中でも英国の時計メーカー〈スミス〉が製造を手掛けたモデルはデザイン、クオリティともに極めて高いことで知られています。 1940年代末に始まるスミス製のJ.W.ベンソンは、その多くが伝統的にローマ数字をアワーマーカーに採用しています。ローマ数字と菱形のクサビが、二重の円の間で一体化して配されるデザインは、明らかにアール・デコの様式美を踏襲した気品溢れる仕上がり。英国時計、とりわけスミスの初期モデルを特徴付ける細身のブルースチール針は幾何学的な線の配置と一致し、文字盤に一層の調和を生んでいます。 ケースは英国高級腕時計に多く見られる9カラットの金無垢製。"A.L.D"のメーカーズマークが示す通り、英国のウォッチケースメーカー〈デニソン〉社によるものです。この腕時計の唯一無二の魅力が味わえるのは、独特のシリンダースタイルのケースとラグデザインにあります。文字盤側から覗くと、薄く直線的なラグとベゼルが見えますが、サイドに視点を移すとケースの厚みが強調される力強いシルエットに切り替わる、奥行きのあるデザイン性が特徴。 スミス製のベンソンの腕時計には、通常の15石ではなく16石の受け石を装備したハイエンドなムーブメントが搭載されます。スミスの代名詞とも言える英国製ムーブメントCAL.1215は15石がベースですが、こちらは美しい琉金仕上げや独特のブリッジデザインはそのままに、二番車に大きな受け石を追加。 採用したベルトは"anonym"の〈プエブロ〉。1000年以上も昔からイタリアに伝わる伝統のバケッタ製法をによるベジタブルタンドレザーで、革肌のワイルドな質感が特徴です。エイジングの美しさも定評があり、長く着用することでザラザラした表面は艶を帯び、色は濡れたような深い飴色に変化していきます。