〈J.W.ベンソン〉自体は元々懐中時計を製造していた時計メーカーでしたが、戦後開始した腕時計の製造は、スイスを中心とする時計メーカーに製作を依頼していました。中でも英国の時計メーカー〈スミス〉が製造を手掛けたモデルはデザイン、クオリティともに極めて高いことで知られています。 英国製腕時計の雄として名高いスミス。時計メーカーとしての歴史は古く、1851年にさかのぼります。長く自動車や軍需製品の製造を中心としていた時期を経て、戦後純英国製のムーブメントを搭載した腕時計を発表したのが、1947年のこと。そして今回のJ.W.ベンソンによる別注モデルは、それとちょうど同じ年に製造された非常に貴重な品であり、ほとんど使用感や経年変化をしていないニアミントコンディションという凄まじい一本です。 最大の特徴は、初期モデルにしか存在しないデニソン社製のラウンドケースの素材に9金無垢を採用している点。このタイプのテニソンケースは1940年代末に製造された初期モデル特有の小振りで丸みを帯び、それでいて力強いフォルムが特徴ですが、スミスの場合は多くはクロームプレート、あるいはわずかにステンレススチール製が散見されるのみで、金無垢製はもはや幻と言えるレベルでしか存在していません。ラグのベルト取付け仕様がパリス管ではなくバネ棒式となっている点も、当時最高品質の加工技術を持っていたデニソン社ならでは。ノンポリッシュで肉厚なソリッドゴールドケースの存在感も格別です。 文字盤には英国時計らしさが前面に出た、影付きフォントのアラビア全数字インデックスが夜光塗料を伴って配されるスタイル。ブルースチールのペンシルハンドも同様の夜光塗料が盛られたミリタリーテイストですが、どこか愛嬌があるキュートなルックスは、古い英国車を彷彿とさせます。”SMITHS”とメーカー名のみ表記される、最もクラシックな魅力を放つスミスです。 搭載される英国製ムーブメントは、スミスが誇る名機CAL.1215。こちらの個体は1947年〜1950年の間混在していたいくつかのバリエーションのひとつで、パーツの粒金仕上げに移行した最初期のもので、ブリッジに刻印された"J.W.BENSON LONDON"が特徴。またスミス製のJ.W.ベンソンの腕時計には、多くの場合16石の受け石を装備したムーブメントが搭載されますが、この個体のように1940年代の初期のモデルには通常通りの15石の受け石が用いられます。