英国屈指の老舗時計ブランド〈J.W.ベンソン〉。かつて時計師としてロンドンに工房を持っていたウォッチメーカーであったJ.W.ベンソンですが、第二次大戦中の爆撃で工場を破壊され、戦後は様々なウォッチメーカーに腕時計の製造を委託することでブランドを継続していました。とはいえそのバリエーションは多彩の一言。複数のウォッチメーカーが絡んでいたことから、文字盤はもとよりムーブメントやケースに至るまで、様々なデザインや機構の腕時計が存在します。 こちらはブリティッシュ・ジュエラーズウォッチの例に漏れず、デニソン社の英国製ケースを採用した腕時計。中でも金無垢のデニソンケースは当時から高価格帯で戦後すぐの英国市場にあまりマッチせず、製造数が少ないレアモデルで、質の良い肉厚なボディが特徴。スリーピースケースで段差のついたベゼル、リューズが収まる部分に窪みを設けラウンドシルエットを意識した特徴的な設計など、当時スミスに供給されていた初期のウォッチケースと酷似したスタイルです。 文字盤デザインはクラシックなアラビア全数字とスモールセコンド。しかし特筆すべきは、極めて品格の高い文字盤デザインとしてビッグメゾンもそのデザインを拝借するブレゲ数字とブレゲ針を組み合わせた、フルブレゲスタイルです。全体的に極めてオーソドックスなデザインの腕時計ですが、ブレゲスタイルというだけで唯一無二の輝きを放ち始める魅力的な一本。実際に入手するのも困難で、特にJ.W.ベンソン名義の腕時計では幻といえます。 ムーブメントはフォンテンメロン社のCAL.90。美しいストライプフィニッシュのブリッジに加え、やや大きめの受け石を持つ質実剛健な仕上がりは、この時代ならではと言えます。