文字盤に何のブランド名も入らないこちらの腕時計。スイスのウォッチメーカー〈マーク・ファーブル〉が1945年に手掛けたもので、同社の特徴が非常によく表れた一本です。 マーク・ファーブルは、19世紀にスイスのビエンヌで時計師マーク・ファーブルによって設立された時計工房。元はビエンヌの時計製造協会〈ユニオン・オルロジェール(Union Horlogère SA)〉に所属し、自社でムーブメントを開発・製造していた希有な存在で、同社のムーブメントは〈ユニバーサル・ジュネーブ〉や〈アルピナ〉といった名門ブランドが採用していたことでも知られています。とりわけその美しいムーブメントの仕上げは必見ですが、シンプルで均整の取れたハンサムなルックスもマーク・ファーブルの腕時計の大きな特徴のひとつ。とは言え同社の腕時計は残存個体が極めて少なく、当店も過去に取り扱った店数は片手で数えられる程度です。 特に同社の特徴として挙げられるのが、あえてブランド名を文字盤に表記しないアノニマスダイヤル。12時下にブランドロゴを配する大多数の腕時計ブランドの採ったスタイルを望まず、それ以前の主流であったアノニマススタイルを選んだ理由は、自社がムーブメント製造に特化した自信の現れかもしれません。しかしながら華麗なブレゲ数字の繊細かつ力強いプリンティングや、美しく煌めくブルースチールのテーパードバトン針の立体感、デザインなど、時計を取り巻く外装のディテールも一級品というのがマーク・ファーブルというブランドの真骨頂。 そして当然ながらこちらは英国市場向けに製造されたもので、言わずと知れた英国の高品質ケースメーカー〈デニソン・ウォッチケース・カンパニー〉のケースを採用しています。優美な曲線を描くクッションシェイプの金無垢ケースは、そのシルエットや重厚な質感から一目でそれとわかるほど。ロレックスをはじめとする名門もその高品質に惚れ、こぞって採用するという折り紙つきです。 搭載するCAL.585は、マーク・ファーブル自社製となる稀有なオリジナルムーブメントのスモールセコンドモデル。このムーブメントはユニバーサル・ジュネーブもCAL.260として導入したほか、同じくユニオン・オルロジェール所属であったビエンヌの時計メーカー〈アルピナ〉もマーク・ファーブルからムーブメントの供給を受けるなど、非常に評価の高い機体として知られています。耐震装置インカブロックを装備している点も見逃せません。 着用するベルトは、当店オリジナルの〈アノニム〉。イタリア・トスカーナ地方の名革《ブッテーロ》を使用しています。深い経年変化も楽しめるほか、腕に馴染みやすくその着用感の良さも魅力的です。