〈メトロ〉の名を冠したこちらの腕時計。12時位置下に防水性や耐震性を示すスペック表記が見られますが、ブランドロゴのようなものは見当たらないアノニマスウォッチ。メトロがブランドロゴなのか、はたまた都会的なイメージで付けられたペットネームなのかは定かではありませんが、1930年代の腕時計におけるアール・デコが花開いた秀逸なデザインを持った一本です。 その文字盤は様々な線の配置が幾重にも折り重なるように凝縮感を持って描かれた幾何学デザインが見事。アラビア全数字でありながら、ルミナス塗料が盛られるのは12、3、9のメジャーアワーのみとなっており、そのほかの数字はやや小ぶりなプリント表記。その代わりに、外周部のセクターラインにルミナスが盛られるというリズミカルでユニークな仕様が魅力的。 ケースは昨今急激にその認知度を上げている〈フランソワ・ボーゲル〉が手掛けた、二重蓋構造のスクリューバック式防水ケース。いわゆる「FBケース」ならではの堅牢設計に加え、ラグを含めたオクタゴナルケース全体が多面体・多角体となったデザインは、同社のケースの中でも特にユニークな部類に入ります。 ムーブメントも高級時計顔負けのハイエンドな仕上げが随所に施されています。畝の細めのコート・ド・ジュネーブと呼ばれるストライプフィニッシュに加え、なめらかな流線型を描くパーツエッジの丁寧な面取りは見事。テンプ受けに装備された爪状の「ショックレジスト」は、高級メーカー御用達の初期の耐震装置として知られています。 着用するベルトは〈アノニム(anonym)〉のブリティッシュグリーン。英国で1860年創業という長い歴史を持つタンナー〈J.ベイカー〉社のブライドルレザーを使用しています。同社のブライドルレザーはオークバーグの皮から抽出するタンニンエキスを用い、1枚の皮に1年半という非常に長い時間をかけるという、2000年前と変わらない製法にこだわるユニークな存在で、重厚かつしなやか、それでいてモチモチとした質感が病みつきになります。