腕時計におけるアール・デコ全盛期の1930年代に〈ゼニス〉が手がけた、その当時のユニークなデザイン性を凝縮した一本がこちら。通常12時の下位置に置かれるブランドロゴですが、このモデルはスモールセコンドと時分針の付け根との間に配置されています。これは英国向けの腕時計に多く見られる仕様で、12時下位置にジュエラー等リテイラーのネームを入れる別注時計を想定されています。この個体はそのままゼニス名義で発売されたものですが、同社の質実剛健な時計作りとジュエラーならではの繊細なデザインへ指向性が融合した美しい腕時計といえます。 特に目を見張るのが、すべて直線で構成されたオクタゴナルシェイプの SSケース。ノンポリッシュで切り立ったエッジは、そのコンディションの良さを物語っています。文字盤にはポツポツとした経年の跡が見られるものの、日焼けやケースの使用感がほとんど見られないところをみると、長年ケースにしまい込んだまま忘れ去られたニューオールドストックと思われます。 控えめなサイズのアラビア数字は、奥ゆかしさを旨とする英国時計のデザイン性を象徴するとともに、そのアワーマーカーの視認を助けるシルバーのデュアルトーンダイヤルは、異なる織りのテクスチャーをアワーマーカーとそれ以外の部分とで切り替えることで、視点を変えるごとにトーンの濃淡が切り替わるという魅力的なギミックを持っています。 搭載するムーブメントはCAL.106。ゼニスのスモールセコンドモデルに長く採用されてきた名機のひとつで、丁寧に面取りされた肉厚なパーツや美しい粒金仕上げなど一流のマニュファクチュールならではの技術が光る一機。 着用するベルトは〈アノニム(anonym)〉のブリティッシュグリーン。英国で1860年創業という長い歴史を持つタンナー〈J.ベイカー〉社のブライドルレザーを使用しています。同社のブライドルレザーはオークバーグの皮から抽出するタンニンエキスを用い、1枚の皮に1年半という非常に長い時間をかけるという、2000年前と変わらない製法にこだわるユニークな存在で、重厚かつしなやか、それでいてモチモチとした質感が病みつきになります。
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