1930年代の〈アルピナ〉がドイツ市場向けに製造したモデル「フェスタ」。ドイツ語で「堅牢」を意味する"fest"に由来するの名の通り、質実剛健なルックスに加え、こちらは腕時計におけるアール・デコが爛熟した30年代のデザイン性が横溢する、極めてユニークな文字盤デザインが魅力的な一本。 そのハイライトは、言わずもがなの「東京都ダイヤル」。この時代にもてはやされた、扇状に分割されたダイヤルデザインを総称してセクターダイヤルと呼びますが、特に際立った個性と希少性で知られるのがこちら。中央の円周から放射状にラインが伸びるデザインが東京都の紋章に似ていることから国内では上記の東京都ダイヤルと呼ばれます。ただ、この個体の場合は特別で、レクタンギュラーケースを採用していながら、円周の東京都ダイヤルを用いている点で非常にユニーク。 通常、レクタンギュラーケースは長方形の文字盤を持つため、ミニッツレールも角形を描くのが一般的です。この個体のように、長方形の文字盤に円形のレールを敷くと四隅に無駄な余白が生まれてしまうのは容易に想像がつくため、このような組み合わせはあまり採用されることは当時ありませんでした。しかしながら、逆転の発想でこの余白に面白さを見出すことで生まれたのがこの腕時計です。 角形文字盤、レクタンギュラーケースに対して、円形のミニッツレール、スモールセコンドという異色の組み合わせ。しかしアワーマーカーにローマ数字を用いることで、上品な気位の高さを担保しているという計算高さ。四隅の余白は、無駄どころかむしろ贅沢なイメージすら醸し出す装置として機能しています。凄まじいクリエイティビティの産物。 文字盤の華麗さに対して質実剛健なレクタンギュラーケースの非常に対照的なデザインもまた秀逸。リューズはアルピナが他モデルでも使用する防塵性能を持った特注品で、リューズトップに国際特許の刻印が見られます。独自構造搭載するムーブメントはヴィーナス社のエボーシュCAL.130をベースにアルピナが製造した、CAL.843。パーツエッジの丁寧な面取りからも質実剛健な印象を感じる手巻きモデルです。 採用したベルトは"anonym"の〈プエブロ〉。1000年以上も昔からイタリアに伝わる伝統のバケッタ製法をによるベジタブルタンドレザーで、革肌のワイルドな質感が特徴です。エイジングの美しさも定評があり、長く着用することでザラザラした表面は艶を帯び、色は濡れたような深い飴色に変化していきます。